第15話

柔い何かに、刃を突き立てているかのよう。





いや、うまいこと剣を振らないと、途端に鋼のようにもなる。






吐き気が襲う。



胸の奥が壊れる。





こんな感触、味わいたくなかった。






ぞわぞわと背を冷たいものが這うこの感触を。





きっと俺は生涯忘れられない。






忘れることなんてできない。







『知らなくてもいいことを、知るのは辛いな。』





彦四郎さんの声が、耳元で鳴る。






叫び声やら、矢が飛ぶ音を押し込めて、その声が。



知らなくてもいいことを。




そんな声が。






俺はきっと死ぬまで、いや死んでも尚、毎夜繰り返し見る悪夢として、忘れることなんてできなくなる。









それよりも、なんて人間って、儚いんだろうか。









まるで足元に咲く小さな花を、蹴り上げて散らしているよう。




ただその衝撃で強く香る。


鉄の濃い匂いが。






バラバラと、俺が剣を振り下ろしたところから、人が倒れていく。





こんなにも、脆く。



こんなにも、柔く。







ああ。




この瞳から流れる涙さえ、返り血で赤に染まっているかもしれない。





もう、戻れない。






そんなことを、ぼんやりと頭の隅で考える。





一人足元に倒れるたびに、赤に染まるこの手を、この頬を、



そしてこのアカノクニを、もう俺は忘れない。

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