第14話

「太一殿?!」




吉水院殿が驚いたように叫ぶ。




「どいてくれ!!」




半ば突き飛ばすように、吉水院を押しのけて僧兵たちに混ざる。




そしてそのままさらに駆ける。





正面で蠢く黒に向かって。






戸惑いと、恐怖を浮かべた青い顔たちに向かって。









「うわあああっああああっっ!!!!」








自分の声なのか、



それとも自分ではない声なのか、わからない。






ただ、泣き声じゃないことを祈る。






この頬を濡らす水滴が何か、理解する前に銀を抜く。




やっぱり何も引っかかることなんてない。




鞘がついていることすら、わからないくらいすんなりと。






重い。




いや、軽い?






羽のように軽い。





重さを感じなくなったそれを、一気に振り下ろす。






あの時とは違う。



宮様と初めて会ったあの茶屋での乱闘の時とは違う。





俺は確実に人を殺せる武器を振り下ろしている。







殺そうと思って、銀を。










赤が、散った。











ああ。



生暖かいそれが、俺の頬に飛び散る。







「お、おのれえええっ!!!」





その叫びにも似た声に、感傷に浸っている場合でもない。





すぐに銀を返してまたその声の主へ突き出す。






その衝撃が、銀を伝ってこの手に広がる。






ああ、こういうことか。

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