赤青
第12話
手が、ガタガタと震える。
うまく、紐を結べない。
鎧が着れない。
こんなことをしている間に、どんどん敵が迫ってくるっていうのに。
「太一。」
はっとして顔を上げる。
彦四郎さんが立っていた。
「手伝おう。」
「あ、ありがと・・・。」
みっともないな、俺。
声が震えてる。
俺が怖がっていることに、彦四郎さんは気づいたはずなのに、特に何も言わずに手伝ってくれた。
ただ、鎧の金属がぶつかる音と、衣ずれの音しかしない。
覚悟、きめたはずなのに。
もう、大丈夫だと思ったはずなのに。
喜んでこの手を赤に染めると誓ったはずなのに。
なんて俺は弱い。
現実にその場に立ったら、こんなにも足がすくむ。
「・・・まだ、若いのに、な。」
ふいに彦四郎さんは呟いた。
その声に、いくらか気がまぎれる。
「・・・え?」
笑ってみたけれど、頬の筋肉が動かない。
引きつって、どうしようもない。
痛くて、たまらない。
その頬を、そっと彦四郎さんは両手で押さえた。
悲しそうに。
「知らなくてもいいことを、知るのは辛いな。」
知らなくても、いいことを。
「しなくてもいいことをするのは、辛い。」
胸に棘が刺さる。
大袈裟な痛みを湛えて。
思わず瞳を歪める。
痛い、と叫ぶように。
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