第11話

確か小嶋法師という人が最有力と言われているが、



誰か一人が全て書き上げたわけではなく、大分いろいろな人の手が加わっているのは、現代の研究でもわかっている。





けれど、俺はまだそれらしき人に会ったことがない。






太平記を書きそうな人に会ったことがない。


半年以上傍にいるのに。





あれはおそらく宮方に立ったことのある人でないと書けない。





あれはなんだかんだ言って、宮方寄りで後醍醐天皇よりの文章を書いていた。



細かいことまで知っていた。





つまり、少なくとも内情を知っていて、かつ戦に参加、もしくはその情報をすぐに手に入れることができる人だ。





そして宮様に少なからず悪意を持っているのかもしれない。






心臓が、跳ねる。



ぐっとそれを掴む。










それはもしかして、俺?










この先、また宮様を憎んで、太平記ではそう書いてしまうかもしれない。




俺はもちろん太平記を読んでいる。





大まかな流れは、わかる。







未来の俺が書いてもおかしくない。



小嶋法師を操って書いたって、おかしくない。







一度、息を飲む。




いや、このあと歴史は歴史通りに。





太平記が正しいと言うような男に変貌するかもしれない。






この吉野から転落して、





この灰白が、真っ黒に染まるかもしれない。








「・・・宮様っっ!!!!」







彦四郎さんが、駆けてくる。





それを、ぼんやりと見つめていた。


頬を汗がつうと伝う。







「鎌倉殿、移動開始ですっ!!」








向かってくる。



この吉野まで。






「・・・太一、ゆっくりでいい。すぐに鎧に着換えろ。」






すぐにはここまで来ぬから、と宮様は淡々と言った。




揺らがない、その強さ。




声を出さずに頷いて、吉野の山を駆けあがる。







始まった。







そう思って、大地を蹴った。

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