第10話

「ああ、吉水院。これを播磨に。」





そう言って、宮様はたもとから手紙を取り出す。




「はっ!」




吉水院殿は、それを受け取り、ふかぶかとお辞儀をして走って消えた。






「播磨って・・・則祐のところ?」







赤松則村。



則祐の父親。




播磨で挙兵して、則祐も戦っている。





「そうだ。あちらの戦況も考えなければならぬ。」






播磨から東へ移動して、京へ攻め入る。



そうすれば、この間楠木正成が淀川口を抑えた時のように、京は日上がる。






それをもう一度狙っている。





そのために、宮様は赤松則村を吉野に居ながら操っている。





何月何日に、どうしろという命令を、令旨として赤松の元へ届けている。






遠隔操作。







それだけの手腕を、宮様は持っている。




太平記で言うような短絡的で傲慢な護良親王ではない。





息をしている、護良親王は真逆。






史実を細かく読み解いていけば、すぐにわかる。




本当に、綿密に。





解きほぐすように。



太平記から離れて、引いたところから見れば。









じゃあ、太平記を書いたのは、誰だ?









あれを書いたのは?




そっと、宮様の背を見つめながら考える。

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