第8話
「・・・おそらく、今日にも鎌倉殿が動いたら戦になるだろうな。」
呟くように、吉水院殿は言った。
「そうだね。」
「初陣か?」
初陣。
「そうだよ。戦場なんて、立ったことないし。」
人を殺したことなんて、ないし。
けれどもう覚悟は決まってる。
「・・・そうか。宮様を全力でお守りしてくれ。」
「わかってるよ・・・。」
この吉水院殿は、熱烈な宮様支持者。
そして岩菊丸は、北条つまり鎌倉幕府方。
岩菊丸殿が、鎌倉幕府の軍に参加して楠木軍と戦っている間に、吉水院殿が吉野の僧兵たちを宮方にしてしまった。
吉野と言っても、その内部は派閥がある。
本山派は天台宗で、
当山派は真言宗。
吉野と言っても、この2つの宗派が混在している。
その吉野で最大の勢力を誇っていたのは、この吉水院。
吉水院は天台系だから、
天台宗の比叡山にいた皇子の宮様を支持したって、何にもおかしくない。
宮様はこの吉水院殿の率いる僧兵の力を借りて、ただの寺の山だった吉野を、城塞へと変えてしまった。
「総兵力は、1500位?」
尋ねると、吉水院殿はそっと振り返った。
「2000ほどだろう。」
少ない。
この広い吉野の山を、2000人なんかじゃ守りきれないのは、すぐにわかる。
「・・・それを岩菊丸殿は知っているの?」
少し沈黙が続く。
吉野の執行である岩菊丸が、こちらの総兵力を知っていて、こっちの戦線に回されてきたら状況は一変する。
それを俺はよく知っている。
歴史は歴史のまま進む。
変えてしまいたいのか、しまいたくないのかよくわからない。
けれど少し忠告する。
それくらいは許されてほしいと願う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます