第5話

「・・・最近、ふとした拍子に、あの方は今どうしているだろうかと思うよ。」







突然、彦四郎さんはそう呟いた。




「お元気でいるのかどうか、ふと思う。姫は、年齢的に言っても、私の娘と同じくらいだったからな。」




感傷的に、なっている?


その横顔が、青に染まって寂しそうに揺れる。





「十津川を出る時に、姫と約束したのだ。」



「え?」






「生き抜く覚悟をきめて、もう一度会う、と。」







生き抜く覚悟を。




姉ちゃん、らしいな。







「・・・死ぬ覚悟ならまだしも、生き抜く覚悟をだなんて、言われたのは初めてだったからな。心に残って、原動力になってくれている。」






もう一度、会う。


そう願って、剣を取る。





それはきっと、死ぬ覚悟をきめることよりも、



さらに強く走れる。






武士道とかそういうものは完全無視かもしれないけれど。



「けれど、どうやら守れないかもしれない。」




彦四郎さんは、ぼそりとそう言った。


風が耳元で唸ったのかと思ったけれど。




「・・・え?」





尋ねると、彦四郎さんは一度微笑んだ。







「恐らく、私はここで命を落とす。」








心臓が、収縮する。



突然走ったその痛みに、息ができなくなる。






「宮様の盾になって、死ぬだろう。」







苦しい。



そういうことを、薄々感づいてしまうとでも言うのだろうか。

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