第4話
「・・・そう思って、宮様を諌めた。女に溺れるなと申し上げたが、うまいことはぐらかされてしまったよ。」
ケラケラと楽しそうに笑う。
こんな話を聞いたって、俺は困るだけだと思ったけれど、それでもやっぱり聞きたい。
「・・・宮様は雛鶴姫のこと、好きなんでしょ?」
尋ねると、彦四郎さんは深く笑った。
「・・・姫の為に還俗したようなものだからな。」
姉ちゃんの為に、還俗。
それを聞いて、思わず笑う。
確かに歴史を見ても、何で十津川で還俗したのか疑問だよな。
十津川に落ち延びてくる前も、もちろん宮様は最前線で戦っていたのに、俗体に戻らずに僧侶のままだったからな。
不殺生が、仏教の教えだとしても、構わず。
だったらこのあとに続くこの吉野の戦いでも僧侶の身分で戦ったって、何の支障もないはず。
それにきっと、宮様はもう、自分がこの先どんなに足掻いても帝位に就くことはないと知っている。
だったら僧侶のままでもいいと言うのに。
姉ちゃんの、ためか。
一夜の夢を見せるならともかく、
長く女の人を傍に置くなら、法体のままでは無理だ。
僧侶は結婚できない。
だから?
「・・・宮様に何を申し上げても譲らないから、姫に申し上げた。宮様から身を引いていただきたいと。」
その言葉に、え?と思う。
「潔かった。すぐに了承してくださった。せめてこの御方に身分があれば、と思った。」
身分が。
そんなもの、俺も姉ちゃんも、何もない。
「けれど身分がなくとも、その強さが見事だった。結局、宮様がどうしてもとおっしゃって、姫はご側室になられたが、最後に別れるまで、一度も揺らがなかったな。」
光が、世界に満ちていく。
足元に広がっていた雲海が、静かに晴れていく。
青が薄れて、息を吹き返すように。
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