第3話

「・・・太一は姫に似ている。」





その言葉に、闇に転落するのを寸ででとどまる。



姫に。



もう、誰だ?なんて問わずともわかる。






「・・・雛鶴姫に?」





彦四郎さんは、そっと微笑んだ。




「顔も。雰囲気も。」




雰囲気も。


姉ちゃん。




今でも、繋がっているような気がする。



何気ない言動に、行動に、姉弟だという証が。



どんなに離れていても。



だとしたら、いい。





「・・・見事な姫だった。」






小さく頷く。





「本当は、私は雛鶴姫が宮様のご側室になるのは反対だったのだ。」




「え?」




尋ね返すと、彦四郎さんは小さく笑った。


そんなの初めて知った。






「家柄も、後ろ盾もなく、ましてや記憶すらも曖昧な女性を、宮様のお傍に置いておくのは、鎌倉の間者かもしれないと疑っていたのだ。」






もしかして、その命を奪う存在になるかもしれないと。




「雛鶴姫をお傍に置くくらいならば、竹原の娘をと、思った。」





竹原。



確か十津川の豪族。



竹原滋子。




現代に伝わる伝説だと、その竹原滋子が『雛鶴姫』だった。




確実という資料は残っていないから、信憑性は薄いけれど、通説ではそうなっている。





そうか。



姉ちゃんがここに来たことで、少し歴史が歪んだのか。



いや、竹原滋子が雛鶴姫であろうとなかろうと、どうでもよかったりする。






ただ、雛鶴姫がいれば、いい。






それが例え未来から来た俺の姉ちゃんであっても。



その名を持った誰かがいればいい。





そうすれば、歴史は歴史通り進む。








『雛鶴姫』がいれば、破滅の方向へ進む。








それだけのこと。

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