第2話

「・・・お早う。彦四郎さんこそ。」





正直、最近寒いとかそういうことを感じなくなってきた。



俺の感覚がおかしくなっているだけだと思うけれど、気を張っていると、そういう感覚が二の次になってしまう。



人間ってうまくできているなと思う。






吉野は雪こそ降っていないけれど、山の上だから寒いと思う。



吐く息は、真っ白だ。




如月。




旧暦2月。


現代ならば、もう3月。




寒いけれど、寒さのピークも超えつつある。



梅の花が、もう咲いている。






いや、そろそろ、桜、かな。






空を仰ぐと、青の中で少し膨らみ始めた桜の蕾が震えていた。


昼間になれば暖かくなるから、咲き始めてもおかしくはない。





山桜。





ソメイヨシノとはまた別の品種。


吉野の桜と言えば、この山桜を指す。




開花時期は、木によってバラバラだけど、この吉野は特別。





桜の国。



そう言っても過言ではないほど、春になればむせかえるように咲く。





宮様の好きな、吉野の桜。






うまいこと、見れるかな。






彦四郎さんは、ただ俺の隣りに立って吉野の山々を見下ろす。


無言で。




俺も同じように、無言で見降ろす。






吉野を包むように、雲海が眼下に広がっている。





それくらい吉野は高い場所にある。


こうやって見ていると、まるで雲が足元にあるようで神秘的だった。







「・・・戦が始まるな。」







ぼそりと彦四郎さんが呟く。




「・・・うん。」




ぼんやりと、この場所からでも鎌倉の軍勢が野営しているのが見える。




赤がゆらゆら揺れて、今にも飛びかかってきそうだ。


恐らく、もう射程距離。




日が登れば戦闘開始するだろう。





ここも、赤に。




この手も、赤に。






また胸の内に黒が滲んだ時に、彦四郎さんが言った。

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