第92話
「わかっておるか?」
ゆらりと揺れる炎を、その胸の内に見る。
その想いの激しさに、関係のないこっちが焼き尽くされそうになる。
「で、ですが、殿下!!」
青を振り切るように、呉羽さんは叫んだ。
睨みつけるように宮様を見据える。
「その姫君は、殿下が十津川を出た途端姿を消されたようですわ!!」
その言葉に宮様は一瞬目を見張った。
あ、とそれを見て思う。
呉羽さんもそう思ったのか、してやったりとにやりと微笑む。
ああ、だから女は怖い。
「・・・飛んで行ってしまったように、その痕跡はまるでつかめませぬ。」
「ま、正成のところは?!正成のところには?!!」
真白が突然そう言ったのを聞いて、呉羽さんは怪訝そうに眉を歪める。
「桐子からの報告では、そのようなおなご、どこにもおりませぬ。第一、お供も付けずに十津川から河内まで行けやしません。あの果てなしの山脈の辛さはご存知でしょうに。」
形勢逆転。
真白はそれを聞いて何も言い返せなかったのかぼんやりと宙を見つめただけだった。
「・・・それも私が言ったのだ。」
宮様は呟くように言った。
「え?」
「私と懇意にしている者に会いに行けと。私が言ったのだ。」
それを聞いて安堵する。
呉羽さんはもう何も言い返せなくなったのか、真白と同じように呆然と宮様を見つめていた。
ざまあみろと思ったけれど、どうにもしっくりこない。
宮様が言って、姉ちゃんがその人に会いに行っているはずなのに。
なのになんでこの人は、こんなにも傷付いているんだ?
寂しさが、触れなくても伝わってくるんだ?
「・・・呉羽。ヒナを探るのはもうやめるのだ。私は鎌倉の間者だとしても、ヒナを傍に置く。」
覇気が、ない。
悲しさが満ちて息ができない。
水色に沈んで、苦しい。
「ヒナを傍に置く。」
宮様は同じ言葉を二度繰り返した。
胸の奥が強く握りつぶされるように悲鳴を上げる。
窒息する、と、叫ぶように。
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