再発

第93話

■■■■







髪が、伸びた。







下を向けば、髪が落ちてきて世界を黒に覆う。


短かった髪はもう肩に付きそうになっている。



ここまで伸ばしたのも初めてだな。




別に伸ばしたくて伸ばしたわけじゃないけど、髪の長さがここに来た時間の長さを物語っている。



切りたくても、切れなかったんだ。




髪を切ることもできなかった。





ここから逃げ出そうと思っても逃げ出せなかった。






どうしようもなかった。









「・・・疑っているの?」




薄暗い部屋の中で、一人座禅しているその背中に小さく言った。




あれからまた7日経った。


相変わらず宮様は各地にいる他の仲間たちを操作してゲリラ戦を繰り返している。




俺達はまだ呉羽さんのお世話になっていた。


ぼんやりと漂う平和な空気に、今が戦の最中だって忘れそうになるくらい柔い日々を送っていた。





季節ばかり簡単に移り変わる。




もう秋も深い。




あれ以来、宮様も呉羽さんもあまり話さなくなった。


どちらかと言えば、宮様が呉羽さんを避けているみたいだったけれど。






「・・・疑って?誰をだ。」






狼は振り向かずにそう言った。



その低い声を静かに受け止める。





「雛鶴姫。鎌倉の間者だって。」






はっきりと言うと、狼は黙った。



俺は宮様の背後に立っているから、どんな表情をしているかわからない。






ただその沈黙が答えのような気がする。







疑っても、おかしくはないよな。



姉ちゃんが何て言って、どうやって宮様に未来から来たって信じさせたのかわからないけれど、正直1から10まで信じてくれって言っても無理な話かもしれない。





だって、証明するすべがない。




未来から来たって、言葉だけ。



言葉だけで信じてくれなんて、無理な話かもしれない。




鎌倉の間者や、忍が嘘を吐いているんだって思ったら、もうそうとしか思えなくなってもおかしくない。





それくらい俺たちはおかしい存在。




ここにいるはずのない存在。

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