第90話

「し、忍や間者などと・・・」





則祐が動揺したように声を揺らした。


呉羽さんは瞳だけ動かして則祐を一瞥して、口を開いた。





「真白殿。貴方はご存知のはずです。あの姫君は貴方の突きをかわした。そうでございましょう?」






真白はそれを聞いて、眉を歪める。





「そんなことまで調べたの?だから呉羽は最悪なんだ。」



「宮様のお命をお守りするためなら何でもいたしますわ。」





「ただ雛鶴姫に奪われるのが悔しいだけなんだろ?だから姑息だって言ってるんだ。」






呉羽さんは何も答えずにじっと真白を見つめる。


真白もそれに応えて呉羽さんを睨みつける。




二人は数秒黙っていたが、呉羽さんが先に口を開いた。






「別に真白殿はそう思っていてくださればいいですわ。話を続けます。しかも真白殿は一度姫君に投げ飛ばされている。そうでしょう?」





投げ飛ばされて。



以前に真白が一人だけ投げ飛ばされたことがあるって言っていたのは姉ちゃんのことだったのか。








「そして、剣も使える。それがどこかの姫君のなさることでございましょうか。」








そう言って、呉羽さんは真白を見て笑った。


まるでしてやったりと勝ち誇ったような笑顔で。






「その言葉の発音も、このあたりのものとは違う。どちらかと言えば、東寄り。鎌倉寄り。違いますか?」





呉羽さんの切る手札は最強の手札ばかり。



一手裏返されてその答えを示されるたびに、もう誰も何も言えなくなってしまう。







「違いますか?」






疑うと、もうどんどん疑ってしまう。


真白と則祐の感情が手に取るようにわかってしまう。






違うと言いたい。



けど、俺が口を挟むのは違う。






だって俺は雛鶴姫を知らないことになっている。





でも。

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