第88話
「・・・そうだよ。それがなんだよ!なんでそんなことを呉羽が気にするのさ?!」
なんだか真白が不利みたいだ。
ただ、淡々と揺らぐことなく呉羽さんは言葉を落としただけだったのに。
「宮様は騙されておいでです。」
え?と思う。
騙されて?
誰に?
姉ちゃんに?
「お前、口が過ぎるよ。自分の言っていることをわかってるの?」
今度は真白も淡々と言葉を落とす。
突拍子もないことをと、嘲笑うように唇の端にだけ笑みをはせている。
「騙されて、おいでです。その姫君は素性が全くわかりませぬ。」
その言葉に、背筋が凍る。
この人、姉ちゃんのこと調べたんだと思って怖くなる。
姉ちゃんと俺の繋がりまでバレてしまったんじゃないかって。
バレることなんてないってわかっているけれど。
「呉羽殿。雛鶴姫を御調べになったとでもおっしゃるので?」
今まで一度も口を挟むことのなかった則祐が呉羽さんに向かってそう言う。
「そうでございます。」
「姑息だね。」
真白が吐き捨てるように言ったのを見て、呉羽さんは真白をギロリと睨みつけた。
真白も負けじと睨み返す。
「このようなこと初めてでございますれば、危険と判断したのでまずは貴方がたに申し上げたまで。」
その言葉に真白は鼻で笑う。
「何さ、初めてって。言ってみなよ。」
「・・・あの姫君は、どこをどう調べてもその素性が一切わかりませぬ。出身のお国も、父母さまや、ご兄弟も、何もかもわかりませぬ。」
どこをどう調べても、何も分からない。
そりゃそうだ。
だって俺たちはこの時代で生を受けたわけじゃない。
2007年の現代。
いやもう2008年かな。
とにかく、21世紀の現代。
家族も、兄弟も、全て失ってここに来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます