窒息

第87話

■■■■







「『ヒナ』とは『雛鶴』というお方のことですか?」







あれから10日後、俺たちはまだ、表向きは『寺の娘』の呉羽さんのところにいた。


ここは安全かつ情報が入ってきやすいらしい。






真白と則祐と他愛のない言い合いをしているときに、ふいにそんな声が背後から響いた。


はっとして振り返ると、呉羽さんがきちんと正座していた。




全くその足音も、衣擦れの音も、気配すらなくそこにいた。




その事実に、殺されたっておかしくないと思って背筋がひやりとする。





上忍三家、藤林家の一員。





この人も、忍としての修行を受けているのか?


いや、それよりも現代で生きる俺にとっては、『忍者』という存在すらも疑わしいものだった。





けれど、その技を目の当たりにしたら、もう信じるしかない。






「・・・お前、何様のつもりっ?!」






真白が思いきり呉羽さんをにらみつけて怒鳴った。


すぐ傍で怒鳴るもんだから、耳が痛い。




「ま、真白・・・」




思わず真白を諌める。


相手は一応女の人なんだし。




則祐は相変わらずにやにやと怒った真白を満足気に笑いながら見つめている。




笑っている場合じゃないのにと目で訴えたけれど、則祐は依然意地悪く笑うのをやめない。






「お前があいつを呼び捨てにできるほどの立場じゃないってわかってるよねっ?!」






ぎゃんぎゃん噛み付く真白を、呉羽さんは不快そうにじっと見つめる。




「雛鶴姫っていいなよ!!お前は『様』まで付けたほうがいいよ!!」




「真白、言いすぎだよ。」



「なんだって?!!」




今度は真白が俺に向かってギロリと睨みつける。


またとばっちりをくったと思って、思わず泣き出したくなる。







「・・・雛鶴姫様と、ヒナ様は同一人物でございますか?」







呟くように、呉羽さんは言った。



簡単に。




依然真白をじっと見つめて。





真白はそれを聞いて、バツが悪そうな顔をした。

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