第86話

そっと瞳を開ける。


その動きで涙が一粒零れ落ちる。



瞬く光が影になって揺れる。





え?と思った瞬間、声がした。






「・・・誰か起きておるか?」





障子の向こうで聞き覚えのある声が聞こえる。



さっきまで聞いていたその声。





「お、起きてる。」





他の2人を起こさないようにそっと呟きながら体を起こす。



ゆっくりと障子が開いて、狼がこの瞳に映った。





「眠れぬのか?」






俺の顔をじっと見て、宮様はにっこり笑った。




「・・・少し。」




さっきまで傍にいたことは気づいてないみたいだ。



若干安心する。





「そうか。真白も則祐も眠っているのか。」



「うん。」





「私もここで寝てよいか?」






え?と思ったけれど、頷く。


よく見ると宮様は掛け布団だけ持っている。





「敷布団ないよ。」



「別によい。板間でも難なく眠れる。山の中で野宿も沢山しているしな。」




笑って、少し離れたところですでに横になっている。






「・・・呉羽さんのところに行けばいいじゃないか。」






一応そう言うと、宮様は俺の顔をじっと見つめた。




「な、なんだよ。」




困って抗うと、宮様は笑った。







「いや、悪いことはできぬなと思ったのだ。」







その言葉に、思わず俺が泣きそうになる。





「・・・そう。俺もう寝る。」




掛けてた布団を頭まで被る。





「ああ。おやすみ。」





涙が、瞬かないように。


このかすかな光がその銀鼠の瞳に映らないように。





ぐっと唇を噛んで堪えた。

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