第84話
「そのようなことは申してはいない。」
だから則祐は『飼っている』と言ったんだ。
たしかに、甲賀忍者は1人の主君のために働くのに対して、伊賀の忍者は金銭などによる契約以上の関わりを雇い主との間に持たない。
だから、雇い主と忍者の間に誰かが立つ。
それが上忍三家の一員である呉羽さんの役目。
呉羽さんが一人でやっているのか、それとも藤林家がやっているのかちょっとまだよくわからないけれど、その役割をしているのは確か。
それはつまり派遣会社と同じような感じだろう。
例えば雇い主が忍者を3人貸してくれと呉羽さんに言えば、依頼の難度や今いる忍者のレベルを見て、その雇い主に派遣する。
たぶん、真白の父親も呉羽さんを介して、忍者をレンタルしたことがあるんだろう。
呉羽さんが藤林家のどこの位置にいて、どれほど口出しできるかわからないけれど、多分呉羽さんの発言力は大きい。
だから宮様も今困っている。
「伊賀が鎌倉にお味方したら、殿下は一気に窮地に立たされます。それでも、よろしいのですか?」
まるで脅し。
だから女は怖いんだ。
宮様はただじっと呉羽さんを見つめた。
少し悲しそうに。
2人の視線が絡み合って数秒黙る。
「・・・よい。そうしたらまた別の策を考えるまで。」
「よ、よいなどと!!そのせいで多くの命が犠牲になるかもしれないのですよ?!!」
呉羽さんは驚いたようにそう叫ぶ。
俺も嘘だろと思って目を見張る。
伊賀は鎌倉の大軍が押し寄せてきたときに、まず食い止める場所になる。
要所の一つだって知っているはずなのに。
なのにこんなに簡単に。
「殿下の・・・お命でさえ、奪う日が来るかもしれませぬ。」
呉羽さんは半ば放心状態でそう言った。
鎌倉方に金銭で雇われれば、宮様を狙う日も来るだろう。
それくらい伊賀は甲賀と違ってサバサバしている。
「その崇高な志を捨てるとでも・・・?」
鎌倉幕府を倒して、後醍醐天皇の御世を。
それを捨てても。
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