第82話
「ヒナにとっては、どうでもいいのだ。」
「え?」
「私が《帝の皇子》であってもなくても。ヒナの前では私はただの一人の男としてしかその目に映っていない。」
現人神。
天皇は、神が人の姿を借りてこの世に存在すると信じられてきた。
帝の皇子である宮様も同じ。
神の息子。
もしかしたらその地位になるかもしれない存在。
「ただの人間として扱ってくれる。まっすぐに私にぶつかってきてくれる。今まで誰も私にしてくれなかったことだ。」
それはきっと、姉ちゃんが現代人だから。
その存在の重さが、この時代よりも薄れてしまった現代で育ったから。
「・・・離れていても、天上の星と同じように、私の胸の内でいつも瞬いてくれる。その光を失いたくないのだ。」
「わ、私が、その光になることは・・・?」
どうにかして、繋ぎ止めたいのは呉羽さんも同じ。
その答えを知っているのに、無謀にも向かっていこうとする。
「ない。すまぬな呉羽。」
はっきりと、ゆっくりと宮様はそう言った。
遠目でも、呉羽さんの肩が震えだしたのがわかった。
「で、殿下は私の価値をご存知でしょう?!」
揺れながら、呉羽さんはそう言った。
「知っている。」
「だったらそのお方よりも私を繋ぎとめておいたほうが得策では?!」
荒げた声が、響く。
夏の終わりの生ぬるい空気を震わせる。
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