傾国の姫君
第80話
■■■■
夜が、瞬いている。
遠くで誰かが灯している赤い火が、
天上で煌く、青白い星の光が、
震える心と同じように、
瞬いて、
苦しくなる。
真白も則祐も、俺が出て行った時と何の変わりもなく眠っている。
俺もさっきまで眠っていた位置に、さっきと同じように丸くなる。
目を閉じると、さっきの声が耳の奥で鳴る。
まぶたが熱くなって、涙が込みあがってきそうになる。
「美しい鳥を手に入れたのだ。」
宮様は呟くようにそう言った。
そっと、微笑みながら。
「・・・う、美しい、鳥?」
「そうだ。遠い所を飛んでいたが、どうやら私は手を伸ばして捕まえたらしい。」
手を。
あの手。
白い鳥居から生えた、あの手。
触れなくても、わかる。
今この目に映るその手と、同じ。
「けれど時折、また手の届かない場所へ飛んで行ってしまいそうになるから恐ろしくて、たまらぬ。」
何を言うの?と訴えるように、呉羽さんの瞳が大きくなる。
もう言葉も発せられないみたいだった。
ただ、宮様の笑顔を瞳に映している。
きっと俺も今、呉羽さんと同じ顔をしていると思う。
恐ろしい?
あんたが?
帝の皇子で何もかもその手に持っているはずのあんたが、
怖くて、たまらない?
「気の強い鳥でな、私の前でも一度たりとも媚びることも、その信念が揺らぐこともなかった。芯が強くて美しい人だ。」
美しい人。
もう、『鳥』とは言わなくなった。
きっと、一般的に見れば呉羽さんのほうが美しい。
特別なんだ。
きっとこの人の目には、姉ちゃんはそう映っている。
美しい、人だって。
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