第78話

「・・・別に、どうだっていいじゃないか。」




気づけばそんなことを呟いていた。





「家に帰らずに、ここにいればいいし、雛鶴姫だって好きでいればいい。」





なんだろう、この気持ち。




もしかして真白をここに引きとめようとしている?





もしかして、俺、真白がいなくなったらどこかしら寂しいと思っている?






「どうだっていいよ。明日死ぬかもしれないなら、思うように生きればいい。」






しばらく、沈黙した。



障子から淡い光が差し込んできて、あんなに鋭かった水色が、柔くなってあたりを包む。






「・・・ひとごとだと思って・・・」






そう言って、真白は笑った。




「太一は意外と楽天家か。」




則祐もあきれたように笑う。





「死ねないよ。」




「え?」







「約束したから。必ずもう一度会うって。生き抜くって。」







そう言った真白の声はまっすぐに伸びた。


さっきとは打って変わって。






「太一は嫌いだ。」




「え?」





突然真白はそう言った。







「そう言うのも雛鶴姫にそっくりだ。」







そっくり。


その言葉に胸が締め付けられる。




姉弟である証が、どこかに染みついていればいい。






遠く離れていても、この血は繋がっているんだと信じたい。






「大嫌い。」







思わず笑う。



最近、こいつの言動もわかってきたような気がする。





真逆。




大嫌いは大好きに自動的に変換すればいい。





ひねくれてるよな、こいつ。





「いいよ別に。」





いいよ。



こうやって、暖かい場所で黒が青に転じて世界を満たせばいい。







俺、泳ぐのは得意だから、黒よりも青い世界がいい。








そっと日が落ちるのを、3人で黙って見ていた。




あれから一言も話さなかったけれど、それでいいような気がした。

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