第77話
そっとその震える肩に触れる。
「・・・呉羽なんて嫌いだ。」
真白は呟いた。
「うん。」
「大っ嫌いだ。あんな女。一時宮様の寵を頂いたからって大きい顔して・・・あんな女、宮様のお傍にいる資格なんてないよ。」
「・・・うん。」
同意するほど俺は呉羽さんがどうとか思っていないけれど、頷いた。
「ひとりだけだ。」
真白は消え入りそうな声でそう言った。
ひとりだけ。
雛鶴姫だけ。
でもどうしても「うん。」とは言えなくて唇をぎゅっと噛む。
真白から視線を外して、ほんのちょっと開いた障子の隙間から覗く青い空をじっと見つめる。
「・・・会いたい。」
聞こえない。
聞かなかったことにしたい。
会いたいと呟いた真白の声を、打ち消すように瞳を閉じる。
俺だって会いたい。
会いたいと、苦しいほど思う。
「お前らしくないぞ、真白。」
淡々と、則祐は言う。
「わかってるのか?どんなに恋い焦がれたとしても、姫は宮様のご側室なのだぞ?」
主君である宮様の側室である姉ちゃんに恋したって、決して許されることなんかじゃない。
「そんなんじゃないよ。俺、男しか好きにならないし。」
真白はそう抗った。
そんなの嘘だな。
きっとこいつは姉ちゃんに惹かれてやまないんだろう。
ただそう言ってその気持ちから逃げているだけだ。
隠して見ないようにしているだけだ。
弟としては、複雑でもあるけれど。
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