第75話

■■■■







「お前には関係のないことだね。」





真白は呉羽さんに向かってそう言った。


その顔には嫌悪が滲んでいる。





「・・・確かに私には関係はございませんが、どなたから見てもそうでございましょう。御父上が嘆いていらっしゃいますよ。」





「うるさいな。京に戻る時は戻ってるよ。やるべきこともやってる!あんたにとやかく言われる筋合いはないよ!!」





真白の叫び声が、ビリビリと肌を震わせる。


泣きだしそうな、涙混じりのそんな声。





「・・・私は、貴方を心配して言っただけのこと。殿下もご心配しているでしょう・・・」





「あんたに宮様の何がわかるんだよっっ!!!」






呉羽さんの声を遮って、真白は叫んだ。



その声に、思わず俺が肩をすくめる。



呉羽さんはただ悲しそうに真白を見つめていただけだったけれど。






「あんただって、あんただって何もわかってないくせに!」




俯いたまま、真白は叫んだ。



口を挟むことなんてできなかった。



喧嘩を諌めることすらできない。



ただ、その攻防を追う。






「一から十まで知ってるような口ぶりやめなよ!あんたに宮様の体は慰められても、心までは慰められないんだっっ!!」






呉羽さんのその整った顔立ちが、ショックを受けたように張りついて固まる。





心までは。






水色が、世界を覆っている。



あの手と同じ冷たさで。





「それ、が・・・それができるのは・・・」





ぼろぼろと涙と共に言葉を落とす。



それができるのは、一人だけ。






姉ちゃんだけ。




雛鶴姫だけ。

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