第74話
「悪かったな、辛いことを思い出させて。」
則祐は申し訳なさそうにうなだれて言った。
それを聞いて、さもないと言うように笑って首を振る。
そう、さもないこと。
どっちかと言えば、月子を名乗っている人が、姉ちゃんじゃないかっていう疑問が生まれたことの方が重要。
「・・・早くここ出たい。」
突然真白がそう呟いた。
こいつらしくない弱気なセリフ。
「なんだよ突然。」
恨めしそうに真白が俺を見たときに不意に障子が開いた。
はっとして目を向けると、呉羽さんがこっちを見ていた。
「夕食の支度ができました。どうぞ広間に。」
そう言って深く笑う。
さっきからこの人に若干の畏れを感じてしまうのはその瞳のせいだ。
真っ黒で、その奥に捕らわれたら戻って来れなくなりそうで怖いんだ。
「は、はい・・・ありがとうございます・・・」
語尾がおのずと消える。
真白は俯いていた。
いつもと違う真白の様子に、何て声をかけたらいいかわからない。
「真白殿。」
呉羽さんが真白の名を呼んだ。
真白は顔を上げようとしない。
さらに深く伏せる。
「貴方様は殿下と共にいらっしゃってはいけないでしょう?」
その言葉が、部屋の空気を凍てつかせる。
世界を水色に突き刺して崩壊させた。
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