第73話

「俺、宮様と一緒がいい。」




真白が荷物を降ろしていた俺と則祐に向ってそう言った。




「勝手にしろ。俺は太一と2人でこの部屋を使う。それに宮様の部屋には呉羽殿が来るだろう。」




則祐が素気なく言ったのを聞いて、真白は頬を膨らませた。




「俺も別に則祐と二人でいいし。」




「・・・俺もここでいい。」




ぶーぶー言いながら、真白も荷物を降ろした。







「さっきのはなんだ。」





則祐は俺の顔を一切見ずにそう言った。



けれど、俺に投げかけられた言葉だって簡単にわかる。



「・・・さっきのって?」



何かうまい答えを返そうと思って、そう呟く。


時間稼ぎをしているだけだけれど。





「『月子』と言う名に反応していたな。知っているのか?」





則祐はようやく俺を見て、そのままじっと見据えた。



真白はきょとんとした顔をして俺と則祐を見ている。





「・・・俺の姉ちゃんの名。」





結局ごまかすことなんてできなかった。




「え?」




「俺の双子の姉の名。」




いや、真実を言ったって、差し支えなんてないだろう。



月子は、この時代にはいないんだし。





「双子・・・?お前、双子で生まれたのか?」





「そ。」




「じゃあ何?正成のとこにいる女って、太一の姉なの?」




真白が訝しげに言ったのを聞いて、首を振る。






「ありえない。月子はもう死んでるし。」






この時代にはいない。




どう足掻いたって存在しない。



『死んでいる』と同じ。





「死んで・・・?」




則祐が、青い顔をして呟いた。




「・・・双子が不吉だとか言う迷信で、月子はもういないし。」




適当にそんなことを言う。


真白が「そうなんだ・・・」と小さく呟いていた。




それに双子って言っても、俺と月子は最近仲良くなかった。



同性の双子ならば美しい物語とかあるかもしれないけれど、俺たちの間にそんなものはなかったしな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る