第70話
「こ、この間言ってた雛鶴姫は?」
「・・・恋人と言っても雛鶴姫に出会う前だ。十津川に入る前までは、近畿を転戦していたからな。その時に出会ったおなごだ。」
「一夜だけだとしても、喜んで宮様にはべる女なんて腐るほどいるんだよ。あいつもその中の一人。」
真白は俺を睨みつけながら吐き捨てた。
確実にとばっちりをくったなと思って、怒るよりも呆れた。
「まあ雛鶴姫に会ってからは、宮様は嘘みたいにおとなしいよ。」
真白がそう言ったのを聞いて、則祐は意地悪く笑った。
「なんだよ、則祐。文句あるなら言いなよ。」
白い頬を赤く染めて、真白は抗いながら則祐にそう言った。
「いや、真白は呉羽殿や、その他大勢の宮様の恋人に会ったって、一度も『姫』とは呼ばなかったのにな。」
「それは則祐だって同じじゃないか。今だって呉羽のことを姫だなんて言わないし。」
「現に呉羽殿は、今は持続的に宮様の寵を頂戴するようなお方ではない。敬うべきお方ではないしな。」
シビアっていうか何て言うか。
まあ、そうしないと大勢いすぎて優劣の差が明確にならないのかもしれない。
思わず口を開く。
「そんなのわかんないじゃないか。別に何人恋人がいたって構わないんだろ?」
この時代はそういう時代。
一夫多妻制。
男がどれだけ女の人を傍に置こうと、誰からも文句は言われない。
そういう時代。
現代とは違う。
意識のレベルが違う。
風習が違う。
だから、不幸になるんだ。
「太一は雛鶴姫に会ったことがないからな。」
そう言って、則祐は笑った。
思わず頭にきたけど、ぐっと堪える。
「少なくとも今は宮様は雛鶴姫しか目に入っていないからね。悔しいけど。」
真白が素気なくそう言った。
悔しいのは、姉ちゃんに?
それとも宮様に?
問いたくなったけれど、聞いたって答えないのはわかってた。
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