第69話

「殿下。」




ふいに湧いた言葉に、身をすくめる。




はっとして全員その声の主を目で捕える。




真白なんかすでに刀を抜いている。


駄目だ。




俺、まだ反応が遅い。





耳で捕えるのがやっとだ。






「呉羽。」






宮様は、声の沸いた方向へ向かってそう言った。



表情は一度も崩さない。





「は。」





短くその声が届いた瞬間に、風が舞いあがった。


目にゴミが入って痛くて強く閉じる。



もう一度開いたときには、宮様の足もとに誰かが膝まづいていた。





くれは?





「お久しゅうございます。」






そう答えて、顔を上げた。


俺より2つか3つ上くらい。




多分姉ちゃんと同じくらいか少し上。





小柄で黒目の大きい女の人。


華奢で綺麗な人だ。







「誰だよ。」



隣りに立っていた則祐に小声でそう尋ねる。







「宮様の恋人だ。」








則祐は淡々とそう言った。



恋人?





思わず目を見張る。


真白を見ると、思いきり眉を歪めてその女を睨みつけている。




むき出しの敵対心。





間違いなく本当だろう。

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