第四章 水色

恋人

第68話

■■■■






伸びるその手をぐっと掴む。






冷たくて大きい手は、夏の外気に心地がいい。



引き上げられて、その人は笑う。





「ありがとう。」





呟くように、言葉を落とす。




「顔色が悪いぞ。大丈夫か?」



「・・・暑さに弱いんだ。」




その手を離して、俯く。



夏場に険しい山の中を歩いたことなんてないから、体が音を上げている。





「太一弱いね。全然ダメだね。」



「しょうがないだろ。俺そんなに山登ったことないし。」




「そういう問題じゃないだろう。ここで敵に襲われたらどうするつもりだ。」





「その時はしっかりやるよ。」





何をしっかりやるとでも言うのだろうか。




人殺しを?



しっかりやる?





いや、これは俺がいつか越えなければならないことだ。





こうやって、あの男の傍にいるということはいつか誰かを殺さなきゃならない。



この手を赤に染めなきゃならない。





戦はもう起こっている。



本の中じゃない。


活字の世界じゃない。






俺がいる場所はリアルな世界。






現代の感覚は捨てるべきだ。





誰かを殺したくないなんて、言っている場合じゃない。





そんなこと言ってたら、確実に俺は自分の命を落とす。



足手まといになる。

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