第四章 水色
恋人
第68話
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伸びるその手をぐっと掴む。
冷たくて大きい手は、夏の外気に心地がいい。
引き上げられて、その人は笑う。
「ありがとう。」
呟くように、言葉を落とす。
「顔色が悪いぞ。大丈夫か?」
「・・・暑さに弱いんだ。」
その手を離して、俯く。
夏場に険しい山の中を歩いたことなんてないから、体が音を上げている。
「太一弱いね。全然ダメだね。」
「しょうがないだろ。俺そんなに山登ったことないし。」
「そういう問題じゃないだろう。ここで敵に襲われたらどうするつもりだ。」
「その時はしっかりやるよ。」
何をしっかりやるとでも言うのだろうか。
人殺しを?
しっかりやる?
いや、これは俺がいつか越えなければならないことだ。
こうやって、あの男の傍にいるということはいつか誰かを殺さなきゃならない。
この手を赤に染めなきゃならない。
戦はもう起こっている。
本の中じゃない。
活字の世界じゃない。
俺がいる場所はリアルな世界。
現代の感覚は捨てるべきだ。
誰かを殺したくないなんて、言っている場合じゃない。
そんなこと言ってたら、確実に俺は自分の命を落とす。
足手まといになる。
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