第67話

「・・・アタシだって負けないよ。あんたなかなか芯の通った姫さんだね。」






そう言って、キリコさんは笑った。




芯が通ってるかわからない。


けれど、彼と一緒にいたいから。



彼と、生きていきたいから。





そのためだったら私、なんだってする。






家族がいる現代を捨てて、この時代を選んだときのほうが苦しかったから。





それを思えば、いろんなこと我慢できるから。





「じゃあ付いてきな。月子には、掃除やら洗濯やら炊き出しやらやってもらうんだからね。女手が足りないからありがたいよ。」




そう言ってキリコさんはすらりと細い腕を振って私を呼ぶ。




「がんばるわ。」




キリコさんに駆け寄る。



ここで頑張る。








元弘2年文月10日。



7月10日。





新暦だと、もう8月の半ば。



暑さもそろそろピークだろう。





稲穂の首が垂れて、空が高くなったら、もう秋。





兵糧を蓄えたら、楠木さんも挙兵する。







彼は元気かしら。


そっとその名を呼ぶ。




会いたいと、言葉を添えて。




淡水色■水色をさらに薄くした色。

ごく薄い緑味の色。うすみずいろ。

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