第64話

「殿はそういう人なのさ。アンタが殿の女だとしたらおのずと狙われる。命を繋いでいきたいと思うんだったら、殿の心を乱したくないなら、もっとしっかりしな!」







彼は、そういう人。




常に命を狙われている。



私も、そう。







彼が心を許せるのが私の前だけだとしたら、


私だって、同じ。






彼の心を乱したくないのなら。



もっと自分の身を守ることくらい、自分でしなければ。




何度もそう思うのに、どうしても身になってくれない。



疑うことに慣れていないのが原因だと思うけれど。



でもそんな殺伐とした人間に自分がなりたくないとも思う。





そう思うけれど、いつまでも彼のお荷物になっていたくない。





吐き気がする。


泣きだしたくなって、胸の奥がもやもやする。




負けるか。






「・・・だからって・・・!!!」






その言葉を吐いたと同時に、私は彼女に飛びかかった。


伸ばした腕が、その柔い髪にかかる。





「あっ・・・!」





小さく悲鳴を上げて、私と彼女はその場に倒れこむ。




「だからって首絞めなくてもいいじゃないのっ!!」




「痛い痛い痛い痛いっっ!!!」




取っ組み合いの喧嘩。



メソメソ泣くのは、夜にしよう。




そんなのは後でもできる。





そう思った瞬間、彼女の手が同じように私の髪を掴む。





抜ける!!と思って彼女を押しのけた。





「何すんのよ!!!何本髪の毛抜けたと思ってるのよ!!」



「アンタこそ何するのさっ!!あ~!痛いっ!!まったく野蛮な姫だね!!」





「うるさいわね!!貴女からやってきたことじゃないの!目には目をって素晴らしい法律知らないの?!」





思わずそう叫ぶと、彼女はきょとんとした顔をした。



え?


あれって、日本の法律じゃないのかしら。




そう思った瞬間、脳味噌が嘘みたいにフル回転する。





そうだ!ハンムラビ法典!!




明らかに横文字!


日本じゃないし!!




一気に熱が冷めてひやりとする。



しまった私また怪しい人間全開だ。

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