桐子
第63話
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淡水色の世界は、その名の通り淡い場所だった。
ぼんやりと青く濁った世界は、ぐっと閉じかけた視界の端で一度さらに青く冷たさを湛えて揺れた。
自分の体の制御ができない。
世界が揺れたんじゃなくて、自分が揺れたんだ。
そんなことをただ考えた。
「アンタ、全然ダメ。」
その声が合図。
のどを締め付けていたものが、解かれる。
私はそのまま、地面に滑るようにして倒れこむ。
体が酸素を求めるせいで、貪欲に息を吸い込もうしたら、むせてさらに苦しくなった。
「アンタ、簡単に殺せちゃうよ。そんなんじゃ、全然ダメ。」
「な・・・。」
上がる息の中で、ただそれだけ呟く。
簡単に殺せるって、そうか私殺されそうになっていたのかと、それを聞いてぼんやりと理解する。
それくらい突然で、それくらい私は鈍かった。
だって、こんなにも明確な殺意を感じたことなんて今まで一度だってなかったから。
「アタシがその気になれば、あんたの首を一瞬でへし折ることだってできるよ。」
そう言って、彼女は笑った。
目は、笑ってなんていなかったけれど。
それを見て、ようやく恐怖が芽生える。
あ、と思った時には全身に広がってただ鳥肌が立った。
「ここは、そういう場所なのさ。わかるかい?今までどんなお優しい場所にいたのかわからないけれど、アンタ隙だらけなのよ。姫さまにはこんな場所はいれないよ。」
そういう場所。
わかる。
理解はしてる。
けれど、頭の中だけ。
わかった気になっているだけ。
後ろに回るのを許すなんて、馬鹿だった。
どんなに信頼している人でも、いつ裏切ってくるかわからない。
そういう場所なのに。
悔しいけれど、そういう時代なのに。
平和慣れしている私は、隙だらけなんだ。
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