第60話

「あら~!東湖に左虎じゃないかい!」






その声と共に、前を歩いていた東湖さんと左虎くんは風のようにさらわれた。




さすが風が強い千早だけあって、吹き飛ばされたのかななんてことを冗談混じりに考えていたら、楠木さんが私の隣りでケラケラと笑った。





「桐子。あんたあ、危ないねえ。」





そう言われて、2人の間からむくりと起き上がる。


それを見て、その人が2人に抱きついて押し倒したんだろうとすぐに気づいた。





よく見たら東湖さんも左虎くんもにやにやとだらしない顔をして笑っている。






「殿。だって、アタシ2人に会うの久しぶりなんだ。」





にっこり笑う。


赤い唇がにいっと横に広がる。





妖艶って言葉がぴったり。





「最近ずっと麓に降りていたからですよ、キリコ殿。貴女はいつ見てもお美しい。」




「お前、いつ見てもいい体してんな!」





でれっと鼻の下を伸ばしながら東湖さんと左虎くんがそう言ったのを聞いて、弾みで彼女を見ると、そのナイスバディさにぐらりと世界が歪んだ。





女の私から見てもなんていい体してるのよ!!






「比べなさんな。」






楠木さんがそう言ったのを聞いて目を見張る。


私が彼女から目を離してすぐに、自分の何の抑揚のない体を見ていたのに気づいて楠木さんはそう言ったのだ。





「わ、わ、悪かったわね!!」





思わず顔がかあっと赤くなる。



くっそ、恥ずかしいところを見られてしまったわと、心が毛羽立ってくるのを感じた。






「その子、誰なのさ。初めて見る顔だねえ。」






にいっとさらに笑う。


住む世界が違うってまさにこのことだわ。




同じ女とは思えない。




しかもものすごく美人!!!





ぱっちり開いた大きな瞳に、やわらかくウエーブがかかった髪が、揺れて色っぽい。


そしてめちゃくちゃナイスバディに心臓がばくばく鳴る。


私、女なのに!




思わず生唾を飲んでしまったなんて、誰にも言えない。

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