第59話

「敵が千倍早く来たらどうするんですか!バカ左虎!!!自分で風が強いって言ってたでしょうが!!」





「そうよ!縁起でもない!!」




「ま、間違えた!!間違えた!!!」





「音の読みさえ合っていれば、漢字は何を当てはめてもいいのさ。」





楠木さんはのんびりそう言って笑った。




なんてアバウトな。





千剣破でも、千早でもいい。





なんでもいい。





書いて残すことよりも、口で伝えることのほうが、主だった証拠。



でも悲しいことにそれは、歴史が歪んでしまう原因でもあるのよね。





「私は、東湖さんの意見に賛成だわ。」





そう言うと、左虎くんは唇をひん曲げて私を見た。



「ほら、左虎。私の勝ちです。」



東湖さんは意地悪くそう言って笑う。






千本の剣を持ってしても破れない城。






そうであってほしい。




ここが、落城しなければいい。






「さて、お三方、行きましょうかね。」




楠木さんは笑って歩き出す。



私も舞い上がる髪を押さえてその後を追う。



風が強い。






千早。



千剣破城。







難攻不落の城。





お城の周囲は断崖絶壁。





彼はこのお城のために戦っている。



だったら私もこのお城のために、戦おう。






私には私にしかできないやり方で。

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