千剣破

第58話

■■■■







千剣破城までの道のりは、険しかった。






まさに獣道。


隣が崖なんてほとんど。





額に走る汗を、乱雑に拭う。


もう、いろいろなことに構っていられない。




暑い。


夏だからと言えば当然だけれど、もう苦しいくらい暑い。




くらっと世界が歪んだ瞬間、楠木さんが言った。






「月子、ほら見てみろ。」







指さした先は、世界が開けていた。




息をするのも忘れて、その光に目を細める。


まるで緑色をしたトンネルを抜けたかのよう。




突然広がった空の青も、私の火照った体を冷やしてくれる。






「ち、はや・・・」







思わず呟いた。



冷たい強い風がそこから吹き抜けてきた。


髪が舞って、青い空を黒く浸食する。





「ちはやってのはな、風が強いってことなんだぜ?」





左虎くんは自信満々にそう言った。




「そうでしたか?難攻不落の城という意味ではないのですか?」



東湖さんが眉を歪めてそう言ったのを聞いて、左虎くんも同じ表情になる。





「俺は『千倍早い』からきてるって聞いたぞ?」




「私は『千本の剣を持ってしても破れない城』だと聞きましたよ。」





「左虎くんの千倍早いって何それ。」





呆れて突っ込むと、左虎くんは考え出した。






「・・・て、敵が千倍早く来る・・・?」






そう言って首を傾げた左虎くんの頭を、東湖さんが思いきりはたく。




私もそれに便乗したくなったのを必死で堪えた。

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