第56話

京都が、孤立する。






東は宮様が押さえているとしたら、あとは西からの交通路。



兵庫県は赤松さんが押さえているし、淀川付近の港を押さえたら、もう。





もう、鎌倉幕府は兵力を送り込むことも難しい。







思わず息を飲んだ。


額から頬に流れ落ちる汗でさえ冷たい。





すごい。






彼の力になりたいなんて、よく言えたわ。


彼についていきたいなんて、よく言えた。





完全に、足手まとい。



何にもわからずに、彼を困らせただけだった。







「そうさね。あんたはなかなか筋がいい。東湖や左虎よりもな。」







そう言って、楠木さんは満足そうに笑う。



そんなことないわ。と言って小さく笑った。


けれどもう心ここにあらず。




考えることもままならない。






「そうすれば勝機が見えるのさ。京都にいる朝廷の監視役の六波羅探題を滅亡させれば、この戦は俺たちのほうに一気に流れが傾くのさ。」






六波羅探題。





朝廷の監視役と、治安維持。


鎌倉幕府直属の、京都にいる軍隊。





先に六波羅探題を叩くんだ。



そうすれば、京都は後醍醐天皇のもの。





心おきなく鎌倉を攻められる。







「まあそれでも伊勢と伊賀を封じたとしても、時間稼ぎにしかすぎないね。」




「え?」





楠木さんは大きな木の木陰に入って、岩の上に腰かけた。


私もその傍に座る。



東湖さんと左虎くんはあとを歩いていた私たちが座ったのに気づかずに先に行く。






「何とかして道を封じてる間に六波羅を潰せればこっちのもんだが、鎌倉から大軍が押し寄せてきたら、どうしようもないね。突破されるだろうよ。」





「でも、そうしたら・・・」






その言葉で心臓が痛いくらいに鳴る。


弾んで世界を崩壊させていくように。






「六波羅は強いさ。多分、封じている間は無理だろうね。鎌倉から大軍が来たら、まず吉野が戦場になる。もう宮様は伊勢を出て吉野に向かっているらしいし。」






吉野は、彼が――。






じっと見つめあった。



楠木さんを睨みつけるように。

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