第55話

「水軍ってのは水上で戦うのを主とした集団のことさ。」




「海賊ってこと?」




「悪く言えばなあ。まあ海の専門家さ。水上からの兵糧の輸送、兵士の輸送、攻撃・・・いれば助かるね。伊勢の水軍がこっちに付けば、鎌倉幕府の海路からの兵糧の輸送だって困難さ。鎌倉方の熊野も水軍を持っちゃいるが、陸路が厳しいからな。」





熊野の山道はもう遠慮したい。


それほど険しかったのを思い出す。






つまり、陸路も、水路も彼の手の内。







そう思ったら、ゾクゾクと背筋が鳴った。





すごい。





彼は本当に、この戦の要となる人。






傍にいたときは全然わからなかったけれど、離れてみてその全体像を見て怖くなる。







私、こんなすごい人の恋人なんだって思ったら、突然怖くなった。








「・・・熊野から兵糧を送ったって、伊勢から京都へは抜けられない。河内には貴方がいる。十津川は宮様に協力的。・・・いくら熊野が鎌倉幕府に味方していたって無理なのね。」




呟くように言った。



確かめるように。






「そうさ。播磨には赤松則村がいる。それで俺たちが淀川付近で挙兵したら?」







楠木さんは私にそう言った。


わかるだろうよ。とでも言うように。





淀川。


知ってる。





中学の時の修学旅行、京都と大阪だった。




確か琵琶湖から、京都・大阪を通って兵庫県の県境近くを通って大阪湾に流れ込む大きな川。





そして播磨。



播磨は確か、兵庫県。


十津川にいたときに少し勉強した。





赤松則村は、確か宮様の部下に赤松則祐くんっていう人がいた。


多分、則祐くんのお父さん。





つまりは宮様の味方。






そこで、楠木さんが挙兵したら?





そんなの・・・。








「京都が、孤立するわ。」








夢うつつでそう言った。



ぼんやりと、木々のせいで青くくすんだ世界で。





呟くようにそう言った。

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