第三章 淡水色

要所

第52話

■■■■







「ねえ、楠木さんって、ここらへんの豪族なの?」






少し前を行く楠木さんの背に向って問いかける。




私は、楠木さんと東湖さんと左虎くんと4人で千剣破城まで行くからと山道を歩いていた。


会話が途切れたから、以前から疑問に思ったことを聞いてみたのだ。




振り向くことなく、その返事はすぐに返ってきた。





「そうさね。と言っても、俺は建水分神社という神社の総代表なのさ。」



「たけみくまり神社?」




聞いたことのない複雑な名前だわ。


一度じゃ覚えられないのは確実。






「そう。楠木家は代々その神社の庇護者なのさ。」






神社を守る人?




「気を悪くしたらごめんなさい。神社の庇護者である貴方が、どうして宮家やこの戦と関係があるの?」




例えば、700年後に生まれた私が知っているほどの大きな神社ならわかる。




けれど、聞いたことがあるかどうかもわからない神社の庇護者である人が、どうして日本の頂点の一族でもある宮家と関わりがあるのかわからない。




いや、もしかしたらまた別のルートからかもしれない。






「構わんよ。その建水分神社は、この金剛山やこの近隣の山々から流れ出る水の確保と分配を司る神さんなのさあ。」




「そうですよ、月子殿。水は生きるために欠かせないでしょう。」





楠木さんの前を歩いていた東湖さんが、にっこり笑ってそう言った。




「お前そんなこともわからないのかよ!水がなかったら、米もできねえだろ!お前バカだな!」




なぜか左虎くんがそう言うと腹が立ってくるのはなぜだろう。






「わかったわ。楠木さんはその水の権利を持っているってことなのね。神様が、確保と分配をするんじゃない。貴方が、それをやっているのね。」




「当たり。」




ようやく楠木さんは私のほうを振りかえってそれだけ言って笑った。





水。





現代では、蛇口をひねれば簡単に水が出てきた。



でもこの時代は蛇口なんてない。


井戸だけ。





水がなければ生きていけない。






この時代は特に。



田畑に引く水の確保だって、容易じゃない。

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