第47話

「大っきらいだ!!大っきらいだ!!なんだお前!なんだなんだ!!」




真白はぎゃんぎゃんと俺に向って噛みついてくる。





こういう犬がいたなと思って、現代を少し思い出す。



スピッツとかそういう甲高い声で吠える犬。




いや、こいつはチワワかな。





そう思ったら笑えてきた。






「なんで笑ってるんだ!!お前!!」




「なんでもないよ。嫌いで結構。真白に好かれても虫唾が走る。それに俺の名は太一だって言ってるだろ?もしや真白は記憶力ゼロ?」





「ぜろ?」





きょとんとした顔をした真白を見て、ひやりとする。




この時代、ゼロの概念はなかったのか?




インドでゼロの概念が公になって広がっていったのは、確か紀元後600年代から。


今は、1332年。



いや、待てよ。



ゼロは英数字。




それが既に世界に在っても、日本に在っても、その『読み方』が日本に浸透したのは文明開化以後か。





しまった!!!





初歩的なミスだ。


今までは高氏や高時と話していても、平気で横文字を乱用していた。




なんだそれは?と尋ねられても、『未来の言葉』と言ってその意味を説明すればそれで済んだ。




けれど、ここで横文字を発することは、自分で自分の首を絞めることになる。





狼に疑われたら、シラを切る余裕もない。



未来から来たことが、姉ちゃんと関係があることが、簡単にバレてしまう。




恐る恐る前方を行く狼を見る。


狼はただ無言で山道を上がって行く。



それを見て、胸を撫で下ろす。



よかった、まだ俺がおかしな言葉を使っていたとバレてない。






いや、バレて、じゃなくて、露見していない。






染み付いた何もかもが、純粋な日本語ではないことに腹が立った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る