第44話

「・・・伊勢に来たのは陽動作戦だね。あんたの本来の狙いは持久戦。」





狼は俺をじっと見つめていた。



大して動揺もしてないみたいだ。





「河内で、あんたの同志が城を完成させるのを待ってる。そこが次の戦の要所。」






姉ちゃんは、いない。



連れて、来なかったのか。




きっと、そこがシャレにならないほどの激戦区になるって知っている。







「でもさ、持久戦で勝てると思ってるの?楠木正成がいたって、無理なもんは無理だって、あんたは気付いてるはずだ。このままでは負けるって。」







気づいている。




実質的な元弘の乱の参謀長官。




太平記に出てくるこの男は、短絡的で、傲慢。




でも決してそんな男に、知略的な面が主の参謀の任は絶対に務まらない。






実際は、冷静で頭の回転が速いキレ者。






きっと気づいている。








最後の一手は、鎌倉にいる高氏だって。








あいつの重みを、この男は気付いているはず。




「・・・今から、吉野?」




黙った狼に向って尋ねる。


少し眉を歪める。





気づいていたかと言うように。





狼よりも、真白やその周囲の人間のほうが驚いて慌てている。






「俺も一緒に連れてってよ。」






じっと見つめて言った。



揺らがないように、見据えて。








「損はさせない。あんたの仲間にしてよ。」








最後の一手は高氏じゃない。





高氏を操る俺だ。

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