第43話

「・・・知らない。誰?それ。」






小さく呟く。


知らない。






俺は『ちづ姉』は知っていても、





『ヒナ』も『千鶴子』も知らない。






「そう、なのか・・・?」





「俺は、あんたを知っている。」






狼から瞳を離す。



ただ先に広がる闇をぼんやりと見つめる。






知っている。




限りなく。






だって俺は歴史を知っている。






ほら、やっぱり特別だろう?




この孤独さえ、特別なんだ。








「大塔宮、護良親王。」








その名を呟いた瞬間、銀が舞う。




銀鼠に輝いて、煌く。






音もなく、俺の周囲を数本の刀が取り囲んだ。







「お前、何者?!」





真白が俺の前に立って、刀を突きつけて叫ぶ。



狼の仲間たちが、俺を取り囲む。




切っ先が揺れる。


濃い闇を斬るように。





いつ殺されても仕方ない。



そう思って小さく笑う。

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