第40話

「どういうことだ。」





狼は、そっと俺から手を離した。


ゆっくり瞳を開くと、狼が訝しげに俺を見ていた。






あんたが、憎い。





憎くて、たまらない。






なんで俺までこんな目に。



親も、家族も、友人も、見なれた景色も、時代も、





そして『桜井大和』も失ってしまった。






俺のアイデンティティの大半を失ってしまった。






どこにいても、一人。


どこを見ても、独り。






まるで、見知らぬ国の街角に突然放り出されたかのよう。


宇宙人にさらわれて、遠い星に置き去りにされたかのよう。






俺の中、空っぽだ。








ただ、何事もなく生きたかった。


何事もなく、ごく『普通』に。






あの赤を二度と見ない普通な人生を、と思っていたのに。






俺ばかり。


俺ばかり、こんな目に。





俺ばかり、辛い。




俺ばかり、こんなにも独り。








俺ばかり・・・。








「太一?」




開いた瞳から、頬を伝って雫が落ちる。




月光に反射して、一度煌いて散る。



涙でさえ、光るのに。




闇の中でも、光るすべを知っているのに。






ああ、なんだ。




なんだ、そういうことか。

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