第36話

「太一、真白を助けてくれてありがとう。とても感謝している。」







そう言って、狼は俺を見て笑った。


光がきらきらと、狼の肌の上を滑ってはしゃぐ。




ひきつった笑いを浮かべて、暗い世界で俺は小さく首を振った。






「巻き込んでしまって本当にすまなかったな。今日はもう伊勢には戻れないだろう。この先に私たちが泊まるつもりの寺がある。お前も共に来い。」




じっと見つめられる。


抗えない。




「う、うん・・・。」




頷くと、狼は深く笑った。









なんでこの人は俺をあんな目で見るんだ。



ふとした瞬間、目が合う。




じっと見つめられているような視線を感じて、あえて狼の方を見れない。






なんでこんなに、懐しそうな瞳をするんだ?




なんでこんなに、愛しむような瞳で俺を見るんだ?







いや、俺じゃない。



俺じゃない誰かを見ている。







その瞬間、胸の奥に芽生える微かな疑惑。







はっとして思わず顔を上げると狼と目が合う。



狼はにこりと一度笑う。









もしや。










闇が一気に増殖する。



急いで視線を外して俯く。





心拍数が、胸の奥を壊していく。






跳ねて、跳ねて、黒をまき散らすように。

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