第34話

「・・・やるっての?太一、覚悟できてる?」





「それはこっちのセリフだ真白。」





そう言った瞬間、真白の腕が伸びる。




しなやかに。



その柔い髪が、一度俺の首筋を撫でる。






あ、と思った時にはもう、青い空が目の前に広がっていた。






俺の背に冷たさが走る。


土の湿り気が、気持ちが悪い。




無駄のない動き。






その一連の動作が、美しいと思ってしまったことに腹が立つ。






こいつ剣術よりも、体術の使い手だったのか。



しかもムカつくことに、かなり強い。







「弱いね。俺に向かって大きい口を叩くんじゃないよ。」






その言葉にカチンと来て、跳ね起きる。


こいつにどうしてこんなに敵対心を持つのかどうかわからないけれど、負けられない。





思えば、この時代に来て自分と同い年くらいの相手に会うのも初めてかもしれない。





高氏も、高時も、一回りくらい違うし。





だから尚更負けられない。





真白の首元に、一気に手を掛ける。




「あっ!」




真白は小さく声を上げた。


それをただ鼓膜で受け止める。




俺も同じように真白に一本背負いを掛ける。





けれど真白はうまいことかわした。





くそ!





「・・・俺を投げ飛ばせたのは一人だけだよ。太一なんかに負けられないね。」






そう言って鼻で笑う。





もっと強くなりたい。


なんでこんなヤツに勝てないんだ。





何度か技をかけようとしても、真白はするりとすり抜けていく。




この時代に来てからそんなんばっかだ。


思い通りにならない。





俺はただの凡人だ。





ただ未来を知っているだけ。


それで、自分がすごいと思ってるだけ。





本当はそんなんじゃない。





この時代の人間となんら変わりない。




同化なんかしたくないのに。



特別でいたいのに!!!





くそ!!!

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