第22話

『片岡八郎が死んだよ。』





楠木さんは酷い。





あんなに、抑揚もなく言わなくてもいいのに。


さぞ当たり前のように、言わなくたっていいのに。





人が死ぬことなんて、どうでもいいとでも言うように―――。






「あ、んな言い方、しなくてもいいのに。」



思わず呟いた。



「あ?」



左虎くんがなんだよと言うように声を上げる。






「楠木さん、ちょっと酷いよ・・・あんなにさもどうでもいいように言わなくたっていいのに。」






泣きだしそう。



この2人の前で泣きたくなんてないのに。



ただもやもやと答えの出ないものをぶつけているだけ。



主人の悪口なんて聞きたくないだろうに。








「殿は俺が死んでもきっとああ言うさ。ケロッとな。」





左虎くんはさもないと言うようにそう言った。





「・・・少しは悲しんでほしいとか思わないの?」





訝しげに眉を歪めると、左虎くんは私の背をまたバシバシ叩きながら笑った。




「お前、おもしろいなあ!!さすが俺よりバカ!よっ!世界一!!」





「やめてよちょっと痛いって!!本気で怒るよ!」






そう言ったとき、その腕が私の首に絡みつく。


ぐいっと引き寄せられる。








「一度戦が起こると、アホみたいに簡単に人が死ぬぞ。」








左虎くんは聞いたことのないほどの低い声でそう呟いた。




はっとして目を見張る。






「いちいち悲しんでたら、歩けなくなるに決まってるだろ?」






「・・・うん。」






頷いた。



もっともだと思ったからだ。





けれど、悲しい。





人を失うことの悲しみに鈍感になるのは悲しい。


でもそうしないと自分の身がもたない。






綺麗事も言えない。





だってこれが現実。

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