悲しみ
第20話
■■■■
『気づいたら、現実を取り戻したら、もう全てが終わっているみたいに?』
そう言ったのは、片岡さん。
まさにその通りに貴方は私の前から消える。
あっけなく。
気づいた時にはもう、何もかも終わっていた。
手のひらに散った雪が、瞬時に涙だけ残して消えるように。
その残像だけ網膜に残して。
消えてしまう。
笑顔とか、照れくさそうに抗う姿ばかり、断片的に切り取って、時折発作のように目の前に蘇る。
見たくないと目隠しをしても、まぶたの裏に。
焼き付いて、その痛みで涙が溢れそうになる。
嘘だと信じたいけれど、きっと真実。
楠木さんが私に嘘を吐く理由がない。
あの人は無駄なことはあまりしない。
きっと、真実。
「何、月子の知り合いだったのかよ?」
左虎くんがあっけらかんとそう言う。
「・・・少し、ね。」
「では大塔宮様も月子殿はご存じなのですか?!」
キラキラと光を湛えて東湖さんは私を見つめてそう言った。
それを見て、のどの奥がぎゅっと締まって痛くなる。
「ほんのほんの少しね。」
そう言って、小さく笑った。
彼の側室なのと、言うのは間違っているような気がして、ごまかした。
『間一髪、宮様は無事だったよ。』
さっき楠木さんが言った言葉に、安堵する自分が憎い。
片岡さんがその命を賭して、敵を食い止めてくれたからなのに。
あの人は、彼を助けるために死んだようなものなのに。
なのに、無事だと聞いて、安心している自分が嫌だ。
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