第19話
「・・・十津川の南の玉置山の近くで。一度南下して伊勢を目指す途中だったのだろう。先行している片岡と矢田彦七が玉置一帯を治める連中に襲われたらしい。」
矢田彦七。
確か、私が十津川を彼に黙って出て行こうとした時に、片岡さんと一緒に送って行ってくれた人。
片岡さんのことを先輩だって慕ってた、控え目な人。
「玉置は熊野本宮に近い。熊野は鎌倉幕府に味方してるからな。玉置も鎌倉方だろう。しかも宮様の首には賞金がかかっているらしいさね。」
心臓が弾みすぎて、容赦なく心を壊していく。
片岡さん。
本当に?
「片岡は5・60人の兵にたった一人で斬り込んで討ち死にしたらしい。片岡が敵を食い止めている最中に、矢田が宮様の元へ戻り間一髪宮様は無事だったさ。見事な戦死さ。」
見事な。
まるで、花が散るようにあっけなく。
十津川の桜を思い出す。
桜が散るのもあっけなかった。
嘘。
そう、嘘みたい。
だって私それを見ていないもの。
片岡さんが倒れた姿なんて見ていない。
信じたくなんて、ない。
「・・・そう。見事ね。」
心にもないことを呟いた。
死に方に見事か見事でないかなんてどうだっていい。
どんなに無様でも、生きて帰ってきてくれたほうが数百倍称えられることだと思うのに。
「・・・あんたもお見事。」
楠木さんはそう言って笑った。
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