第17話

「それよりお前、狐にばかされてるってホントかよ?!バッカだろ!アホだなアホ!」




「うるさいわね!ばかされちゃったんだからしょうがないでしょ!」




「ああ、私、たった今思い出しました。そう、月子殿。記憶を失う前は私と恋人だったのですよ!さあ、思い出してごらんなさい!」




「ありえないし。」





「ま、とにかく、俺たちはこうやって転々としながら身を隠してるのさぁ。ま、明日は千剣破に行くからな。」




楠木さんはマイペースにそう言った。


この人は憎たらしいくらい本当に動じないわね。





「朝早いからな。頼んだぞ、3人とも。」





そう言って、楠木さんはすっと立ち上がった。



それを目で追う。




数歩歩いて、楠木さんはぴたりと足を止めて振り返った。



振り返って、少し笑う。





え?



と、心の中で言葉が生まれた時に楠木さんは言った。










「片岡八郎が死んだよ。」











一気に世界は闇の中に沈む。





耳が痛いほどの静寂が広がる。






その言葉の意味がわからない。


視覚できない、認識できない。




楠木さんが何を言ったのか、全くわからない。





いや、静寂なんか広がってない。





隣りでは左虎くんと東湖さんが、「誰だっけ?」「さあ。」と言っている。







私の世界が、嘘みたいに楠木さんだけになった。







ただ、その姿を目で追った。

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