見事
第12話
■■■■
「こいつの髪の色と同じだな。胡桃色だ。」
そう言って、左虎くんは東湖さんの長い髪をぐいっと引っ張る。
東湖さんは悲鳴を上げて左虎くんを突き飛ばした。
「胡桃色?ああ、胡桃の殻の色と同じね。山の上から見たとき、胡桃色がとても綺麗だったわ。」
私は2人に構わずにそう言う。
大分この2人の対処法も慣れてきたと思う。
「それよりさ、お前夜中どこにいるんだよ。」
「は?」
「いや、覗いたらいなかったし。」
ケロリとそう言った左虎くんの頭に向って、持っていた湯呑を投げつける。
見事にヒットして、湯呑もろとも左虎くんは仰向けに倒れた。
「ざまあみろ左虎!月子殿に夜這いをかけようとするからですよ!」
ゲラゲラと笑って、東湖さんは左虎くんに向って座布団を投げつける。
「貴方もよ。東湖さん。昨日来たでしょ。」
私は自分の座布団を東湖さんに投げつけた。
こっちもうまくヒットして、東湖さんも左虎くんと並んで倒れこんだ。
「なんだよ東湖。お前もすでに夜這いかけた後かよ。」
「それはこっちのセリフです、左虎。私より先に月子殿をいただくなんて許さないですよ?」
「どっちも許さないわよ。」
十津川にいたときから、夜這いがこの時代の一般的なごく普通な風習だと知って、その回避法を私はいろいろと編み出してきたのだ。
大部分は彼に助けられてきたから、その回避法を使うのは初めて位の勢いだったけれど。
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