覚醒

第96話

「・・・もう少し優しくしろ」





彼がそう言ったのを聞いたけれど、答えずに目だけで睨みつける。




「痛い。優しくしろと言っておる」




「喧嘩した貴方が悪いのよ」




塗り薬を染み込ませた布を、彼の口元に貼り付ける。




「貴方が止めてくれると思ったのに・・・」



「痛いと言っておるだろう」




押さえつけた私の手を、すっとその手が掴んだ。



氷のような冷たさに思わず身をすくめる。




「何で貴方ってこんなに手が冷たいのよ。かじかんで手が動かなくならない?」




尋ねると、彼は眉を歪めた。




「部屋の中にいる分なら平気だ」




ってことは外だと寒いってことなのね。


肝心なことは言わないんだから、この人。




「それより、痛いのだ。もっと優しくやってくれ」




「痛いってね、喧嘩した貴方が悪いって言ってるじゃないの。なんで喧嘩するのよ。貴方は止める立場でしょ?」




愚痴愚痴と呟くように言うと、彼が笑った。




「ヒナが止めてくれるだろう」




「止めてくれるって貴方ね、二度はないって言ってるのよ。二度は」




「お前はよい太刀筋をしておる。きっと良い武将になる」




にこにこと屈託なく笑いながら彼は言った。


本気で言っているのかしら、この人。




「それはさっきも聞いたわよ。私は女よ?武将になんてなれやしないわよ」




なりたくもないし。



いじけて口を尖らせると彼は笑った。

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