第92話

ぎょっとして振り向くと、彼はまだ大笑いしている。




「ヒナ、お前は本当に面白い女だな」



「・・・面白さなんて追求してない」



ムッとして、抗う。


彼はにやにやと笑っている。




「おかしな女だ」




「わ、悪かったわね。ほら」





そう言って、彼の前に手を差し出す。



ん?と言うような表情になったのを見て口を開いた。





「触ってよ」





眉を歪めたけれど、彼は私の手にそっと自分の手を重ねた。




「これは」




すぐに気づいて私を見る。





「剣ダコ。貴方と同じ。私もずっと剣を習ってたの」





お父さんが歴史好きだったから。


太一兄ちゃんが習ってて、私も同じように習った。




それこそ幼稚園のときから。




お母さんが亡くなってからはそんなに頻繁には練習できなくなってしまったけれど、中学も高校も剣道部。



好きだったからずっと続けていた。


忙しい合間でも、部活は出れる限り出ていたし。




あの日だって、お父さんが鎌倉に来いなんて言わなかったら、自主練習で学校行こうと思っていたくらいだった。





「良い太刀筋だ。お前は良い武将になれるだろう」



「そんなのならないわよ。趣味よ。趣味」





誉められたのが何だか恥ずかしくなって抗う。



それにしても良い武将にって、私、女なのよ?







「す、すっげえ!!」






突然背後からそんな声がした。



まだ若干声の高い、少年が抜けきらない声。



振り向くと、私をきらきらとしたまなざしで、口をあんぐりと開けて見ている男の子がいた。





「すっげ!朔太郎たちをこてんぱんにしちゃうなんて、あんたすごいな!」





大和よりも少し下かしら。



まだあどけない表情が残るその子は、瞳を輝かせたままこっちに歩いてきた。

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