第87話

「・・・いや、面白いな」




まだまじまじと見ている彼に笑えてきてしまう。




私も彼の書いたものをまじまじ見て、それを一つ一つ分析する。




よく見れば、読める。




所々、よくわからないけれど、読める字は確かにある。


極端に少ないのはしょうがない。




「私も、こういう字を書けるようになるわ」




そういうと、彼は微笑んだ。




「うむ。それがいい。そのほうがいろいろと便利だろう」




こういう字を、書けるように。


読めるように。




そう言った自分に、また驚く。




私、この時代で生活しようとしているのかしら。





この時代で、最期まで生きるつもりなのかしら。






「私も教えてやるから、共に頑張るのだ」






共に。




「・・・うん」




共に、生きるのかしら。




生きれるのかしら。





この時代の人間に?




そう思ったら、途端に絶望が襲う。





きっと無理。





私はいつか帰る。



自分の時代に。





この時代で生きるなんて無理。


全てが真逆で、何もかも違いすぎて無理。





筆を半紙の上に走らせる。


墨が足りなくて、悲鳴のように擦れる。


それが泣き声のように聞こえる。




絶対、帰るのだから。



そう思って、唇を噛みしめた。

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